病院の待合室は混んでいた。だったら外のベンチで待つことにしよう。
今日は気温も高く外の方が気持ちいい。ベンチには先客の婆ちゃんが1人、ちょっと会釈して横に座らせてもらう。
何気なく、意味もなく両手を顔の前にかざし、しみじみと眺めていた。
あーあ、手までこんなになっちゃって、歳をとったものだ。
すると横に座る婆ちゃんが、大きな声で、
「まあ、若いから、キレイな手して」
はあ~、この手がですか? 思わず、自分の手、引っ込めちゃいましたよ。
若いからって、この私が? この手が? 笑えます、ハハハで、てへへですよ。
で、婆ちゃんは言う。
「マスクしてるからわかんないかもしれないけど、ワタシなんか、もう顔だって、シワクチャよ」
………………えっ? はい? マジですか? 婆ちゃんのシワクチャはマスクでは隠れてないと思いますが。
この婆ちゃん、御年90歳だそうです。ここへはタクシーで来たけれど、杖も使わず付き添いもなく1人で。
スゴイです、で、明るい。声は大きく張りがあり、よく笑う、アハハハハハと豪快に。
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この婆ちゃん、20年前にここの紹介で両膝の手術をしたという。人工膝の耐久年数は20年と言われたけど、もう過ぎちゃったよ、アハハハハハ。
婆ちゃん大きな声で笑う、オババもつられてハハハハハ。
そして婆ちゃんは、52歳でバイクの免許を取り、82歳まで乗りまわしていた。
でも、さすがに危ないからと息子に言われ、今度は電動カートに。でも、それだとあまり遠くへは行けなくてつまらない、と言う
遠くまで行くと息子は心配のあまり怒りだすらしい。
遠いところは俺が連れて行くから、と息子は言うけど、
「買い物は1人で行きたい、1人で好きなように、ゆっくり見て回りたい」
そんなことをちょっと寂し気に、そして遠慮がちに言うのだった。
わかるわ、いくつになっても買い物は気が晴れるし、楽しいもの。
待っていられたりすると、落ち着いて買い物なんかできやしない、楽しさ半減だわよ。
これは男の人にはちょっと理解し難いかもしれないけど。
でも、ここまで来るには大変だったらしい。きついお姑さんで、ずいぶん辛い思いもしたらしい。
そんな婆ちゃんにはまだまだ長生きしてもらって、残りの人生を存分に楽しんでもらいたいものだ。
90歳で杖も使わず1人で病院通い、で、よく喋り、よく笑い、で、ちょっと可愛い。
すごいですね、自分が90歳? なれる? 生きてる? はぁ~、考えただけで……。
もし生きていても、あの元気、あの明るさ、あの笑い……正直、自信、ないです、はい。
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