箱入り奥さんの涙

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今朝はちょっと早起きして遠出。

用事を済ますと、1時間に1本しか来ない電車に乗り遅れないよう、急いで駅へ向かう。

小さな無人駅には小さな待合室があり、そこで20分後に到着する電車を待つことにした。

待合室にはすでに先客が一人いて、同年配と思われるその女性から「こんにちは」と声をかけられる。

私も笑顔で「こんにちは」と返す。

 

午後の静かな待合室には私たち二人だけ。

するとその人に、「この辺で、どこかいい眼医者さんを知りませんか?」と訊かれた。

この辺りの住人でない私はその旨を伝える。

するとその人は残念そうに、そうですか、と応え、これを機に次から次へと自分のことを話しだすのだった。

 

ちょっとふっくらとした可愛いらしい感じのその人は、1ヵ月前に夫を亡くし、それまでは夫に頼り切りの生活だった。と言う。

今日も用事があって電車を利用しなければならないけれど、夫のいない今、電車に乗ることはとても難しく苦労している。

 

 それは生活全般に及び途方に暮れる毎日で、今までは夫がどこにでも連れていってくれたけど、車の免許を持っていない私は電車を利用しなければならず、その電車の乗り方、乗り換えもよくわからない。

なので電車を使わなければ通えないような眼医者、歯医者をやめて、そこにかわる医院をこの近所に見つけたいのだけれど、自分ではわからないし探せない。

こうして何もかも全ては生前のご主人との生活につながり、奥さんは話しながら目に涙をためるのだった。

 

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うーん、困ったわね、弱ったわね……この予期せぬ展開に慰める言葉も見つからないわ。

で、可愛らしいおばさんの流す涙を見たら、私も途方に暮れてしまいましたよ。

 

そこへ、私の乗る上り電車が来たのですが、その人は下り電車に乗るので、まだ、あと20分ほど待たなければなりません。

 

だったら、この人は一体全体いつから駅にいるのかしら? 

私と出会って20分、次の電車が来るまで20分、これだけで40分、その前から居たってことは……。

「電車に乗るのが難しい、苦労する」この調子では、そりゃそうでしょ、頷けます。

 

しかし、私と同年配? まだ昼間、でも、一人で大丈夫かしら? 

行ったはいいけど、帰って来れるのかしら、そんな気持ちにさせる人でありました。

 

これではご主人も奥さんのことが心配で心配で成仏できないのではないかしら。

何でもしてくれる頼りになる夫、そんな夫に全幅の信頼を寄せ頼り切ってきた可愛いらしい妻(話しぶりから子供はいない?)。

この箱入り奥さんの涙を見れば、どれだけ幸せな結婚生活だったか、ひとり者のおばはんでも、よーくわかります。

 

しかし人生はままならないものだわね。

こんなに仲の良い幸せな夫婦だったというのに。

多分、奥さんの年齢から察するに、ご主人は平均寿命にも満たなかったのではないかしら。

でも、予想外にこんなにも早く辛い別れをしなくてはならないなんて。

その反対の人たちだって大勢いるというのに。

 

でも、奥さん、駄目よ、気をつけてよ。途方に暮れ寂しいからと言って見知らぬ人にペラペラと個人情報垂れ流しては。高齢者狙いの犯罪増えているんだから。

大丈夫かしら? 頼りなく無防備で可愛いらしい箱入り奥さん。電車に乗ってからも気になってしかたなかったおばはんでした。

しかしね、私の人生で、初めてだわね。御主人に大切にされてきたのはわかるけど、この時代に、ここまで「箱入り」でいられたという「奥さん」と遭遇したのは。

でも、あと3年も経ったら、箱を蹴やぶり蹴とばして信じられないほど逞しくなっているかもしれないわね。

 

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